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脳と食べ物―DHA、EPAで頭がよくなる?

脳の働きに必要な物質とは

 「青魚に多く含まれるDHAで頭がよくなる」というのは、今や日本では“一般常識”となっていますが、本当のところはどうなのでしょうか?
 頭が良くなるといわれる食べ物は、魚に含まれるDHAやEPA以外にもたくさんあります。そしてその科学的な根拠とされるものもさまざまです。

 ここではまず脳の働きに必要な「脳によい物質」をご紹介します。便宜上、@血をさらさらにする物質、A脳のエネルギー源やその生成に関わる物質、A脳の神経伝達物質の生成に関わる物質、Cその他、に分けてまとめてみました。

@血をさらさらにする物質

EPA(エイコサペンタエン酸) 血液をさらさらにして、動脈硬化を防ぐ働きがあります。
DHA(ドコサヘキサエン酸) 血液をさらさらにして、動脈硬化を防ぐ働きの他に、脳の神経細胞の発育に関係しています。

A脳のエネルギー源やその生成に関わる物質

ブドウ糖 糖質(ショ糖、麦芽糖、デンプンなどの炭水化物)は体内でブドウ糖に分解され、血液中に取り込まれてエネルギー源として利用されます。脳は、私たちが消費するエネルギーの約20%〜30%も使っています。なお、余ったブドウ糖は脂肪に変換されて蓄えられます。
ビタミンB1 ブドウ糖の代謝に欠かせない物質。脳の中枢神経や末梢神経の機能を正常に保つ働きもあります。

A脳の神経伝達物質の生成に関わる物質

レシチン リン脂質の一種で、細胞膜や脳、神経組織を覆う物質の成分です。脳の神経伝達物質の一つであるアセチルコリンの材料ともなります。アセチルコリンの働きの一つに記憶の形成があります。
亜鉛 生殖機能に関わるミネラルで、不足すると味盲になることで知られます。亜鉛は神経細胞間の刺激伝達物質を合成する成分ともなります。
チロシン 脳を活性化させるドーパミンや、ノルアドレナリンなどをつくり出す神経伝達物質の原料となります。
たんぱく質 脳細胞をはじめとする全身の細胞を構成する物質ですが、脳内の神経伝達物質の合成を活発化するとされます。

Cその他

その他に、カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸、カルシウム、マグネシウムなどのビタミン、ミネラルが脳の機能を維持するために必要な働きをすると考えられています。

 改めてまとめてみると、脳に良い物質は実にたくさんありますね。
 これらを含む食品は、背の青い魚や、ウナギ、カキ、穀物、果物、肉類、卵、緑黄野菜、乳製品、大豆製品、ナッツ類など多岐にわたります。ほとんどの食品が「脳によいもの」に当てはまってしまいます。
 つまり、普通にバランスのよい食事をとっていれば、脳はしっかり働いてくれるということです。

脳に必要な食べ物=頭がよくなる食べ物か?

 さて、ここで問題になるのは、「脳に必要な物質を含む食べ物を食べると、本当に頭がよくなるか」ということです。
 上記の「脳によい物質」は、確かに脳が正常に働くために必要な物質のようです。しかし、脳の働きに必要だということと、それを多くとれば頭がよくなるということはまったく別問題です。
●脳とブドウ糖
 たとえば、ブドウ糖について考えてみましょう。
 脳がブドウ糖を大量に消費したとしても、脳にブドウ糖が不足するという状態は通常では起こりえません。不足分は絶えず血液から供給されるからです。脳全体の血流の流れは一定になるよう調節されていますし、血中のブドウ糖の濃度も正常な人なら常に一定に保たれています。
 
 もしも、ブドウ糖の濃度が増すと頭の働きがよくなるなら、過食を長期間続けて血糖値を上げればよいわけですが、そんなことをしても高血圧や、動脈硬化、糖尿病を招くだけです。糖尿病は動脈硬化を進行させるので、脳梗塞のリスクをさらに高めます。
●DHA、EPAで脳梗塞や心筋梗塞の予防、あわせて認知症の予防に!
 DHAやEPAの頭脳向上効果は、しっかりした統計があるわけではありません。まだ十分に検証されていない学説の一つに過ぎません。

 ただし、DHAやEPAは血をさらさらにするため、脳梗塞や心筋梗塞などの深刻な生活習慣病を予防する効果があります。そのため、青魚には脳血管型の認知症を予防する効果も期待できます。

 でも、「認知症の予防に有効な方法」だからといって、すぐに「頭がよくなる」と考えるのはどうでしょうか? あまりに短絡的な思考といわざるを得ません。
 これはたとえば、「百マス計算をたくさんやっていれば、いつか二次方程式が解けるようになる」と主張するのと同じです。
●脳トレで“頭脳の筋肉”をつける
 頭脳の鍛錬は、筋肉をつけたりスポーツの技能を修得したりするのに似ています。
 筋肉に必要な栄養素、プロテインを毎日摂取しただけでは、強い筋肉はつきません。スポーツに筋トレが必要なように、頭にも脳トレが必要なのです。たくさん使った部分は強くなり、使わない部分は弱くなる。当然のことですね。

作られたDHAブーム
頭がよくなるには、自分で考える習慣を…

神経伝達物質「グルタミン酸」の神話

 かなり昔の話になりますが、化学調味料「味の素」(グルタミン酸)をなめると頭がよくなる、という説が一般に流布されたことがあります。ちなみに、グルタミン酸はうまみ成分の一つとして知られ、昆布などの食品に多く含まれていますが、神経伝達物質の一つでもあります。

 しかし、このときは「頭のよくなる物質が体に入っても、脳に届ける方法がない」という説が同時に流れて、世間が大騒ぎするほどにはなりませんでした。

日本人の心をくすぐった脳の研究

 それでは、今や「常識」となっているDHAと脳との関係はどうでしょうか。
 そもそもの発端は1989年、イギリス脳栄養化学研究所のクロフォード教授が「日本の子どもが欧米に比べてIQが高いのは、魚中心の食生活を営んできたからかもしれない」ということを著書に書いたことにあるようです。
 
 こういう話って、日本人は大好きですね。さっそくマスコミが報じ、翌年には水産庁と業界団体が「魚を食べると頭がよくなる」キャンペーンを繰り広げました。

 これによってイワシやサバの消費量が増えたかどうかは知りませんが、DHA入りの食品・サプリメント市場が新たに誕生し、今日に至っています。薬や食の問題を管轄する厚生労働省や、教育を管轄する文部科学省ではなく、水産庁(現農林水産省)が音頭をとったところに、DHAブームの本質が隠されているようです。

 一般に、ある物質の効能を科学的に証明するためには、その物質が作用する生理的なメカニズムの解明と並んで、統計的にも意味のある数字を示さなければなりません。
 たとえば、がんとたばこの関係の場合は、十年、二十年という歳月をかけて喫煙者、非喫煙者などいくつかのグループに分けて、がんの部位ごとに統計をとっています。その結果、がん全体の原因としては、喫煙が30パーセント関与しているという定説が生まれたのです。

科学的な新説・奇説への対処の仕方

 私たち一般人は科学に弱いため、十分に検証されていない新説・奇説にすぐに飛びつく傾向があります。特にマスコミと業界がそこに乗ると、時には間違ったことが世間の常識として定着することもあります。そうなると、学問の世界では否定されたことが、世間ではいつまでも“真理”として生き続けることになります。 →関連用語「フードファディズム」=右を参照

 学者先生の新発見の中には、たとえば象の耳だけにスポットライトを当てて、「象とはうちわのようなものだ」と主張するに等しいものもあります。部分的には間違いとはいえないものでも、それを拡大解釈して、商品のイメージ作りをしているようなら、まず疑ってみる知性が必要でしょう。

 “科学的な迷信”に惑わされないためには、さまざまな角度からの情報に目を通し、自分で考える習慣をつけることです。 これこそ究極の“脳トレ”ではないでしょうか。
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フードファディズムって
ご存知ですか? 

メディアには、食べ物や栄養素について健康や病気に過大に効果があると信じさせる情報が氾濫しています。これをフードファディズムといいます。
健康食品の中には、科学的な説明をしていても、まったく誤った情報も少なくありません。
高いお金を払わされて効果がないばかりなく、安全性にも問題がある場合がありますから、学問的に裏付けられた食品情報を正しく知ることが大切です。(管理人)